鈴木宏和の人生 VOL.4不都合な真実 KPMGを退職

周りを変えるのではなく、
自分が変わる

自分の価値を補うため、
社会的意義のある仕事を追い求めていた

日本社会を変えようと、周りを変えようとシステム思考を学んでいました。 その過程で、自分の内面のシステムに目を向けたら、僕自身が「本当の自分には価値がない」と思っていて、そんな自分を補おうと、社会的に意義のある仕事を追い求めていることに気が付きました。

JAL再生、国会事故調と社会的意義ある仕事を、仕事の規模を大きくしながら続けてきたけれど、これには際限がないなと。 ひたすら周りを変えようと努力してきたけど、まずは自分が変わるんだなと。そこには気づいたものの、具体的にどうしたら良いかは分からず、ひたすら苦悩の日々でした。

本当の自分には
価値がない

地球のためには
1ミリも役に立っていない?

どうにも、やり甲斐が湧かない

仕事としては、東京電力と中部電力が合弁会社を設立して進めようとしている、燃料上流・調達から発電、電力・ガスの卸販売にいたる一連のバリューチェーンの統合のアドバイザーを責任者として携わっていました。 仕事の規模は大きいけれど、どうにもこうにもやり甲斐が湧かなかったんです。

そんな中、パリ協定(COP21:国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)直前のころ、定期的な勉強会に出ていました。 経済産業省のOBだった方が主催している会で電力会社やエネルギー会社の部長や役員が大勢出ている勉強会でした。そこでCOP21の話になった時、ある大手エネルギー会社の役員の発言にすごく違和感を感じました。

「次のCOP21の焦点は、多国籍間のクレジットですね(日本の技術を発展途上国に供与することによって、それによるCO2削減分を日本のクレジットとしてカウントしてもらうこと)」と話していて。 「いや、そりゃ国益を考えたらそうかもしれないけれども、地球全体のことを考えたら日本としてできることあるだろ!」っと思ったんです。

自分がやっていることは、お金という意味では、それこそ5千億、1兆円という世界だけれども、実は、この地球のためには1ミリも役に立っていないんじゃないか?と思い、 何か自分の仕事に対してすごく違和感を感じるようになりました。

自分の仕事に
違和感を覚える

降り方がわからない

肩書のない自分なんて、誰からも愛されない

いろんなことを悶々と考えていたタイミングで、以前から気になっていた山田博さんに出会い、そして「森のリトリート」に行くことになりました。 ちょうどキャンセルになった、電力会社の役員とのヨーロッパ出張が予定されていた日程で、運命的なタイミングだったなと思います。

森のリトリートのビジネス編で、最初に「なぜ、あなたは今のビジネスをしているんですか?」という問いを渡されました。 社会のためとか、この国のためとか、何かきれいなことが出てくるのかと思いきや、自分の中から湧いてきたのは「降り方がわからない」という言葉。

自分は今まで、ある意味「人からよく評価される」という敷かれたレールの上を歩いてきました。 いい大学に入り、いい会社に勤め、いい給料をもらい、そして、社会的に意義ある仕事をしてきた。そんなことをしてきたけれども、本当はそこから降りたくて。 本当に自分が望んでいることをやりたいと思っているけれど、どうすればいいのかわからない。

次に「怖れは何ですか?障害になっているものは何ですか?」という問いを受けて、「いや、そんなの、怖れしかありませんけど」という感じでした(笑)。 KPMGという会社の肩書のないたった一人ぼっちになった、ありのままの自分なんて、誰からも愛されるわけがないと思っていました。何か向き合わざるを得ないもの直面したような、不都合な真実と向き合う体験でした。

自分の可能性のかぎり生きる

君たちも好きなように生きればいい

しばらくして、子どもが発達障害であることが分かりました。子ども達を目の前にして「本当に子ども達が可能性のかぎり幸せに生きられる、そんな社会を創っていきたい」と、親として思います。

同時に、もちろん子ども達のことは応援しているけれども、「お父さんは、お金のために安定を、サラリーマンとして生きる道を選んだ。 でも君たちの時代は違うから、君たちは可能性の限り生きなさい」って、まったく説得力がない。

「お父さんも可能性の限り生きてきた」と、子ども達に自分の背中を見せ、「君たちも好きなように生きればいい」って言いたいと思いました。 自分の可能性のかぎり生きよう、会社を辞めよう、KPMGを辞めようと決断しました。